Main Menu

折れた「第1の矢」

誰もが「アベノミクス」は完全に失敗したと見ている。だが、安倍晋三首相はこれを認めようとはしない。これを認めたら、そこで首相の政治生命は終わることになる。そもそも長州出身の首相は、毛利元就の「3本の矢の訓え」になぞらえて、「アベノミクス」は3本の矢からなると宣った。それなら元就の訓えに従えば良かったのに、訓えの逆を行った。その時点で、この結末は見えていたようなものである。

毛利元就の「3本の矢の訓え」とは、「矢は1本だと簡単に折れる。だが、3本だと折ることが出来ない。兄弟3人がまとまることが大事だ」という訓えである。処が、「アベノミクスの3本の矢」はまとまるどころか、ばらばらに放たれた。3本目の矢に至っては、放たれたかどうかさえ分からない。それからして、「アベノミクス」という言葉に首相が飛びついた時、確たる構想があったかも疑わしいのである。

最近の在京マスコミは、自民党の圧力や首相の報復が怖いのだろうか、「アベノミクス」を失敗と言う経済評論家を排除している。だから「アベノミクス」は失敗ではなく、行き詰まりと言うらしい。その行き詰まりの第一として、日銀の金融政策が限界に達していることが挙げられる。黒田東彦日銀総裁はマイナス金利の更なる緩和、つまりマイナス幅の拡大を示唆するが、そんなことを望む者は誰もいない。

マイナス金利としたことにより、日銀の金融政策はその限界を示した。そこにアメリカのドル高回避があり、金融市場で円は一気に円高に向かいだした。そしてアベノミクス唯一の成果?であった株価をも引き下げることとなった。連休前の4月28日に日経平均株価は前日の 17,290円から 600円以上も下がり 16,666円で終わった。5月2日には 16,147円、6日には 16,106円と 16,000円の大台割れ寸前である。

アベノミクスの行き詰まりは、このように株価に反映し始めている。日経平均株価は今後1年で3千円以上下がり、1万4千円台を割り込むとの見方が出始めている。昨年のピークから7千円の下げが言われだしたのである。東京株式市場から、外資が既に5兆円引き上げており、さらに加速するだろうと言う。世界最大の資産運用会社の一つ、ブラックロック社は、日本株の上げ基調は終わったと主張しているそうだ。

日銀の試算ではマイナス金利を課す日銀当座預金は23兆円程度。その金利、即ち、民間銀行が負担する直接コストは年間230億円ほどに過ぎないと踏んだ。確かに民間銀行の直接コスト負担はそんなに大きくない。だが、長期金利の低下による貸出金利の低落、保有債券の利回り低下による減収、運用利回りの低下による減収など、銀行の収益ダウンは何兆円の規模に達する。そこまで日銀が考えたか疑問なのである。

このように銀行は大変でも、民間では住宅ローン金利が下がるので、新規の住宅建設需要が拡大するだろうとか、住宅ローンの借り換えで生じた余裕が新しい消費(=需要)を起こす、とアベノミクス信者は期待する。だが、それはゼロではないが、決して大きなものにはならない。この考えは、住宅金融公庫のローン金利6%を利用した世代が、頭の中で描く餅以外のなにものでもない。

日銀のマイナス金利導入報道から2ヶ月。この4月の住宅ローン金利動向に大きな変化はない。昨年末から変動金利は0.7~0.8%にまで下がっており、日銀より先行していた。昨年9月、マイナス金利の直前に住宅ローンを組んだ知人のお嬢さんから直接聞いた話だが、昨年秋の時点でローン金利は0.5%であったと言う。逆に、三菱や三井・住友などの大手銀行では、10年型固定金利を上げたそうである。

マイナス0.1%金利が適用された翌々日の2月18日、参院財政金融委員会で、野党から「マイナス金利を導入している欧州では金融機関がコスト転嫁のため住宅ローンの金利を引き上げている」と指摘された黒田日銀総裁は、「日本では住宅ローン金利の引き上げが起きることはなかなか考えられない」と答弁した。たが、日銀総裁の読みは外れ、野党が指摘した通りのことが起きている。

なお、大手銀行が金利を引き上げたのは、コスト転嫁ではなく長期金利の低下が一服したとの経営判断からだという説がある。10年型固定住宅ローン金利は10年国債の利回りによって決まる。その10年国債の利回りが3月18日に0.135%にまで下がった。大手銀行はそこがボトムと判断したと言う。いずれにしろ、ここでも市場は日銀総裁の思惑とは違った動きをしている。一事が万事である。

異次元緩和という第1の矢は、最初こそはサプライズを市場に与えたが、マイナス金利を導入した時点で、この政策は破綻した。それでも大型連休前の4月28日の記者会見で、日銀総裁は、「まだまだいくらでもマイナス金利は深堀できる」と語った。また、その記者会見で、デフレ脱却にむけて掲げた2%の物価上昇目標の達成時期を17年前半から、17年度中とさらに先送りすると宣ったのであった。

この黒田発言を裏付けるというか揶揄するかのように、総務省は28日、3月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)が、前年同月比0.3%下落、昨年10月以来5ヶ月ぶりにマイナスに転じたと発表した。総務省によると、消費の基調判断は前月に続いて「弱い動きが見られる」となっている。サラリーマン世帯の消費支出は実質4.9%マイナスだというから、消費は冷え込んでいる。

収入の少ない一庶民・一消費者の立場から言えば、消費者物価指数など別に上がらなくてもいい。それはさておき、黒田日銀総裁は自らが掲げた2年以内2%の目標が、4年目になっても達成できないだけではなく、さらに1年以上先になることを、恬として恥じていない。民間企業の社長なら辞任である。黒田氏は市場にサプライズを与えて来たというが、今、黒田氏が辞任すれば、市場に最大のサプライズを与える。

黒田氏の辞任は「アベノミクス」の失敗を認めることになるから、首相が辞任を認めることはないだろう。首相は、野党から「アベノミクスは失敗」と追及されると「雇用が改善した。完全失業者数が152万人も減った」と抗弁する。首相に数字の明細まで報告が上がっていないのか、それとも意識的に都合のよい数字だけを取り上げているのか知らないが、増えたのは非正規雇用者数で正規雇用者数は逆に減っている。 

だから首相は「何をとぼけたことを言っているのか」となる。昨年4月首相は「16年2月に2%の目標達成が出来なければアベノミクスは失敗だ」と述べていた。それから言えば、失敗以外の何ものでもない。さらに今年の2月に、首相は「消費増税がなかったら、アベノミクスは上手くいったはずだった」*と、実質的な失敗宣言をしていた。(*注:Business Journal 3月10日 渡邉哲也による)

では何故、アベノミクスは失敗したのか。まずは毛利元就の「3本の矢の訓え」に逆らったからである。元就は「3本まとまれ」と訓えたのだが、アベノミクスの3本の矢はてんでばらばらに射られた。特に第3の矢はその存在すら分からない。3本の矢を同時に相次いで射てこそ効果が出る。処が、第1の矢だけが暴走気味に飛び出しており、他の矢との整合が取れていない。これが失敗の第1の原因である。

第2の原因は政治の優先順位を間違えたことである。安倍政治にとって、日本経済の先行きが最優先の政策課題ではなかったからである。12年の総選挙で「アベノミクス」を前面に押し出し、「経済の安倍」で大勝利を収めたのだが、政権を手にした後は、特別秘密保護法であり、14年の総選挙の後は安保法制であった。「アベノミクス」は、決して最優先課題ではなかった。選挙に勝つ手段でしかなかった。

日本経済の先行きが政治の最優先課題であれば、日本経済と密接な関係にある中国と不仲になるような外交などあり得ない。処が首相は、経済より国家安全保障優先の政治を行っている。先軍主義の北朝鮮を見れば分かるように、国民の生活を第一にしないで、安全保障を第一にすると、国民は悲惨な状態に追い込まれる。首相は、国民の生活が豊かな国であってこその安全保障だということが分かっていない。






コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です